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「明日への提言」

地球環境簡題の対策に日本の経験と技術が活用されるために

町田 勝(環境カウンセラー)

世界の平和を脅かす地球環境の悪化

 現在、世界の平和を脅かす4つの重大な問題が指摘されている。その4つとは、①核戦争再発の危慎、②民族・宗教間対鍵立の激化、③エイズや新型インフルエンザ等の悪性感染性疾病の急増、④地球環境の急激な悪化と対策の遅れである。中でも地球環境の急激な悪化は、その影響が気候変動として実際に現れており、各国が危機感を抱いている。

 このような危機感の中で2007年のノーベル平和賞を、ゴア元アメリカ副大統領と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が受賞している。その受賞理由は、人為的に起こる気候変動についての知識を広め、その変動を打ち消すために必要な処置の基盤を築く努力があったためである。

 気候変動の対策では1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、日本が議長国となり京都議定書が採択された。その議定書で先進各国の温室効果ガスの排出についての数値目標が決定され、途中離脱したアメリカを除き各国がその目標達成に向けて取り組んでいる。また、2008年7月に北海道洞爺湖で開催された主要国首脳会議(G8)で、日本が議長国となりメインテーマの1つとして地球環境問題が取り上げられた。再び議長国となって地球環境問題の対策の舵取りをする機会が与えられたことに、廻りあわせの縁を強く感じたところである。

 その後、2008年9月にアメリカでおこったリーマン・ショックを発端として世界全体が不況となり、これまで経済発展に貢献してきた世界的な企業が、次々と倒産の危機に陥っている。この世界同時不況からの脱却のためにアメリカのオバマ新大統領は、グリーン・ニューデール政策を打ち出した。これは、今まで経済発展の阻害要因として軽視されていた地球環境問題の対策を経済復活の牽引役とする、考え方のベクトルを180度転換させた政策である。この地球環境問題の対策は、資源に乏しく過去に大気汚染等の深刻な公害問題を克服した経験がある日本において、最も得意とする分野である。

 そこで、気候変動等の地球環境問題の対策を、日本が中心となって進めるための後押しになると思われるので、有害排気ガスによる大気汚染を克服した経験、地球環境問題の対策に必要となる省エネ技術を紹介する。また、日本の経験と技術が地球環境問題の対・策に活用されるために、宗教者への期待について筆者の思いを述べる。

大気汚染を克服した経験

 1960年代の日本は、工場や自動車等の発生源から排出される有害排気ガスの影響により、四日市市、川崎市等で大気汚染が発生していた。その対舎応のために1971年に環境省が発足し、色々な対策を組み合わせることで大気汚染が改善され、1980年代には有害排気ガスによる大気汚染を克服してきた経験がある。この大気汚染は局所的な地域の問題であり、被害者である住民と加害者である有害排気ガスの排出者がはっきり別れる問題である。この問題の克服にあたり、被害者である住民、加害者である排出者ならびに政府や地方公共団体がどのように取り組んだのかを整理する。

 始めに被害者の住民であるが、主に住民運動として展開された。それは、政府や地方公共団体に対する陳情、排出者に対して工場建設の反対運動および工場の操業停止運動、政府と排出者に対して健康被害の住民訴訟等であった。続いて排出者であるが、発生源の排出防止設備の設置、排出防止技術の開発等の投資をおこなった。最後に政府や地方公共団体であるが、法律や条例による排出量の規制、排出者と個別の公害防止協定を締結し排出量の制限、排出防止設備を設置するため補助金の交付等である。また、発生源の立ち入り調査の実施や排出防止技術の情報を排出者に提供した。これらの取り組みにより、大気汚染は改善され現在に至っている。

 ここで触れておくが、この大気汚染を克服する過程で、宗教者の取り組みについての記録がほとんどない状況であった。なお、数少ない記録の中からは、大気汚染が原因で亡くなられた方々の集団慰霊が報告されている。

エネルギー効率が高い日本の省エネ技術

 地球環境問題は、局所的な地域の問題である大気汚染とは違い地球全体に広がる問題である。たとえば、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出が人の生活そのものに起因するなど、全ての人々が被害者であると同時に加害者になりうる問題となっている。

 日本では温室効果ガスの削減において、製造業(発電、エネルギー多消費産業、その他の産業)、運輸、業務(オフィス等)、家庭の4つの部門に分けて対策が進められてきている。その他の部門として、農業、林業、廃棄物を別に加えるケースもある。そして、各部門が共通して進めている対蕊策が、エネルギー消費の削減と省エネ技術の積極的な導入である。日本はエネルギーを含めて資源に乏しい国である。そのために、1970年代の2度の石油危機以降、エネルギー消費の削減の推進と省エネ技術の開発が進展してきている。

 ここで日本の省エネ技術、すなわちエネルギー効率がどの程度なのかを見るために、OECD加盟国のドイツ、イギリス、アメリカの2000年のGDP(lUS$=¥108)当たりのエネルギー消費と比較する。そうすると、GDP当たりで消費するエネルギーの量は、日本が最も少なく、ドイツとイギリスでは日本の約2倍のエネルギーを、アメリカでは日本の約2.5倍のエネルギーを消費しなければならない。このエネルギー効率が高い日本の省エネ技術を、エネルギー消費の多いアメリカ、中国、ロシア、インド等に積極的に普及することで、これらの国々のエネルギー消費を大幅に削減することが期待できる。

 ここまでは日本における、大気汚染を克服した経|験と省エネ技術について述べた。続いて、これらの経験と技術を地球環境問題の対策に活用してもらうためにどうするかを、地球環境問題の対策と宗教の関係、宗教者への期待で述べる。

地球環境問題の対策と宗教の関係

 多くの宗教教団は、教えや活動の中で「もったいない」「少欲知足」等、資源を大切にすることを説いている。また、宗教者の方々も実生活の中で簡素にされていると思う。筆者は宗教を専門に研究している専門家ではないが、宗教の教えや活動の中に、ISO14001(環境マネジメントシステム:EMS)の要求事項と類似すると思われるところがあるので紹介する。なおISO14001とは、企業や組織の活動が環境に与える影響を最小限に食い止めることを目的として、国際標準化機構(ISO)において定められた国際的な標準規格である。

 最初にISO14001では、中心となる概念としてPDCAサイクル(Plan計画、Do実施および運営、Check点検および是正処置、Act見直し)がある。このPDCAサイクルを回し課題解決しながらスパイラル・アップして、環境負荷を少なくする仕組みを企業や組織が自ら構築するように規格で要求されている。このPDCAサイクルは仏教の開祖である釈尊が初転法輪以来、解き明かされた四諦の法門の積極的な活用に類似すると思われる。四諦の法門を積極的に活用すると、滅諦(どうしたい:計画)、道諦(どうすれば:実施)、苦諦(どうだった:点検)、集諦(なぜできなかった:見直し)となり、PDCAサイクルと合致する。

 続いて、ISO14001では実施状況の内部と外部へのコミュニケーション活動が重要とされている。その目的は環境思想の根付きであり、内部に対してISO活動への積極的な参加を促し、外部に対してISO活動の広報や環境意識を高める効果がある。これは、宗教教団のおこなう布教と同じような活動になる。布教では、文書やインターネットならびに個別訪問等の活動になり、宗教教団の教えの実践者や賛同者を増やすことにつながっている。

 別の例であるが、日本から発信され既に40年近い実績のある、世界宗教者平和会議の第8回会議(WCRPⅧ)が2006年に京都で開催され、その議題の1つに地球環境問題が取り上げられ活発に議論された。また、2008年7月に北海道洞爺湖で開催されたG8に合わせて、WCRP日本委員会から議長に対して地球環境問題の対策を含む提言がなされた。

 このように、宗教教団の教えや活動の中で、地球環境問題の対策のためのノウハウが包含され、既に実践されていることが確認できる。また、世界の宗教指導者が「平和な世界を築く」目的のために、率先して地球環境問題の対策に取り組んでいる実績が見られる。

宗教者への期待

 繰り返し述べていることであるが、日本では大気汚染を克服した経験と地球環境問題の対策に必要となる省エネ技術を持っている。しかし、それらも活用してもらわなければ価値がない。そこで、これらの経験と技術が活用されるために、政府や企業が積極的に情報発信するとともに、日本が世界で信頼関係を構築できるように努力する必要がある。ここで、全地球的な問題である地球環境問題の対策において、宗教者への期待を3つほど提示する。これらは既に実践されていることであるが、改めて気づくためにあえて述べさせていただく。1つ目は宗教者が協力して、政府、企業や住民に対し地球環境問題の対策に積極的に取り組むように、宗教者自らの実践を踏まえて情報発信することである。2つ目は地球上で限りがある資源の化石燃料や食料等を、一人一人が大切に使うように導くことである。3つ目は宗教者が実践している地球環境問題の対策を広報すること。さらに付け加えると、大気汚染を克服した経験と省エネ技術が活用されるために、WCRP等の実績を踏まえて、日本が世界で信頼関係を構築できるように助言や後押しをすることである。


◆プロフィール◆

町田 勝(まちだ・まさる)       (1954年生)

埼玉県生まれ。2006年放送大学大学院修士(政策経営)修了。1975年グリーンブルー㈱常務取締役、顧問等歴任、現在非常勤取締役。1988年(社)日本環境測定分析協会委員長、理事等歴任、現在広報情報委員。2002年21イーネット㈱代表取締役(現職)。

専門:政策経営、環境カウンセリング、放射線取扱、環境モニタリング、公害防止。

(CANDANA238号より)

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