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「明日への提言」

移住について考える

平 修久(聖学院大学名誉教授)

1.はじめに

 住む場所によってできることが異なり、どこに住むかは人生の中で重要な事項である。人生を変える手段の一つとして移住がある。バブル崩壊、リーマンショックに加えて、コロナ感染症蔓延がプッシュ要因として移住を促してきた。

 国は、戦後、均衡ある国土の発展を目指し、全国総合開発計画を4回策定して、地方の開発を進めた。その後、国土形成計画を3回策定し、総合的かつ長期的な国土づくりの方向性を示してきた。第二次形成計画(2014)において、初めて「田園回帰」「地方移住」といった語句を用いて、ふるさとテレワーク、田舎探し、シニア世代の地方居住、地域おこし協力隊などの具体的施策を記述した。同年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」においても、地方への移住促進が主要施策の一つとして位置付けられ、地方創生推進交付金の対象となった。施策の具体的方向として、地方への人材還流、地方での人材育成、地方の雇用対策が掲げられた。国民の間の移住の動きに便乗して、地方の停滞・衰退の解決策の一つとして、都市部から地方への移住を推進するようになった。しかしながら、言うまでもなく、移住するかしないかは各自の判断であり、我々は国や自治体の推進策を利用する立場にある。

 移住を文字通り「移り住む」ことと捉えると、地方から都市部への転入や業務命令による転勤・引っ越しも含まれるが、本稿では、自らの意志によって都市部から地方へ移り住むことを対象にする。筆者の2年半の移住体験を軸に、参考文献を交えて、移住者サイドと移住先サイドの両方の状況と両者の関係を論じたい。

2.移住希望者の動向

 移住タイプとして、移住先により、生まれ育った故郷に帰るUターン、故郷の近くに戻るJ ターンに加え、地縁などのない地域へ移住するI ターンがある。移住形態も、短期を含めると、二拠点居住、インターンシップ、ワーキングホリデー、ワーケーションなど様々である。

 I ターン者は、一般的に、良好な自然環境、ワークライフバランス、自分の価値観に合った生活、子育て環境や豊かな人間関係など都市に不足しがちな生活環境を求めて大都市圏から地方へ移住すると言われている。また、Iターン者は、比較的自由に地域とのつながりを選択的に築くことができるほか、行動や発言の自由度が高い。I ターン移住は、場所選択を重視したライフスタイル移住の側面が強まっている。O’ReillyとBenson(2009)は、ライフスタイル移住を、比較的裕福な全世代の個人が、多様な理由でより良い生活の質が提供される可能性のある場所に一時的、あるいは完全に移り住むことと定義している。

 ふるさと回帰支援センター(2021)では、アンケート調査結果をもとに、首都圏の1都3県の地方移住希望者が309万人に上ると推計している。また、20-30代が移住に最も積極的であり、移住検討と新型コロナウイルス感染症の「影響がある」との回答は約3割であることから、地方移住はコロナ禍による一過性のブームではないと判断している。

 総務省によると、各都道府県や市町村の移住相談窓口及びイベントで受けた相談件数は、2015年度の141,683件から2022年度には370,332件へと2.6倍増加した。また、齋藤(2023)は、若い世代の地方移住の意向の高まりには、地域おこし協力隊制度の整備、非正規雇用などの生活困難からの脱却、ライフコース選択の柔軟性の増加、自然志向の強まりなどの社会的背景があるとしている。

 パーソル総合研究所の調査(2022)によると、テレワークや遠隔地居住ができる人ほど、移住を具体的に検討している。しかし、意向者の51.3%は、何らかの不安があり移住に踏み切れずにいる。Iターンは現役世代を中心にして近年増加傾向にあり、検討されている移住タイプで最も多い(56.7%)。ただし、I ターン意向者の現在の暮らしの評価は総じて低い傾向にある。また、タイプ別年代別の移住意向者は、U ターンは、男性が30代、女性が20代・30代で多く、I ターンは、男性が20代で特に多い。

3.筆者の移住プロセス

 筆者は、2021年4月に埼玉県朝霞市から岩手県釜石市に移住した。その10年前の2011年11月に、東日本大震災の復興支援として勤務校の学生に何ができるかを調べるために、初めて釜石を訪れた。翌年から、ボランティアスタディツアーで学生たちと、年に2、3回釜石を訪れた。また、震災復興のために創設された地元NPOからの依頼で、体験漁業再開の可能性・水産物の加工などについて2012年に調査した。これらを通して、釜石の多数の人とつながることができた。

 やがて、定年後にどこでどのような生活を送るかを考えるようになり、大学周辺や居住地での地域活動を通じて多少の人間関係を有していたが、今までの生活を大きく変え、残りの人生で多様なことを行いたいと思い、釜石への移住の意を2018年ころに固めた。この時点では、移住後にやることとして、地域活動の支援、水産物の燻製づくり、学生ボランティアの宿泊場所の提供、東北での登山を考えた。

 釜石への移住が可能かどうかについて確認するため、移住の2年前に釜石の人に相談した。「おもしろいね」という人がいた一方で、「やめた方がいい」という人もいた。

 移住を勧めなかった人が、借家人募集中の家を見つけてくれた。転居はコロナ禍の最中であったが、借家を紹介してくれた人が、荷物搬入や家電製品の購入などを手伝ってくれたり、近所のあいさつ回りに連れて行ってくれたりと、温かく受け入れてくれたことを感謝した。

 筆者の移住は、I ターンであり、リタイアメント移住に分類される。動機の面からは、ライフスタイル移住に該当する。移住後、1年間は授業のため、釜石と埼玉を毎週往復する二拠点生活を送った。その間は、コロナ感染症蔓延防止のため、夏休み期間以外は人と会うことを控え、釜石での単身生活に慣れることに心がけた。

 地方の自治体では移住推進のため、各種補助制度を用意している。釜石市でも若者などの現役世代を主な支援対象としているが、筆者は年齢制限により市から支援は受けられなかった。しかし、それよりも重要な支援を地域住民から受けることができた。

 ちなみに、高齢者の移住受入れについて、日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)構想がある。同構想の有識者会議では、「東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくり」を提唱している。高齢者は、地域の仕事や社会活動、生涯学習などの活動に積極的に参加する「主体的な存在」として位置付けられ、地域社会に溶け込み、地元住民や子ども・若者などの多世代と交流・共働する「オープン型」の居住を基本としている。

4. 地域での活動を通しての人間関係づくり

 孤独感や対人的・習慣的な違いが移住地への適応を妨げる要因となる。逆に、日常生活における人間関係や仕事上での信頼の獲得、自らの考え方の転換や切り替え、独立・開業による仕事面での成功や人間関係の構築などが地域への適応に寄与する。(加藤、前村、2021)

 移住から定住に向けて、移住者と地域住民とのつながりは極めて重要である。つながりが形成されれば、地域から受容され、期待もされる。よそ者と認識はされるものの、もともと地域にいた人々とは異なる視点を持っているために、地域の魅力を再発見したり、地域の特産品を使用して何らかの商品を生産したり、あるいは、しがらみのない立場で発言し問題を解決したりすることも可能である(青木、2023)。一方、つながりが形成されないと疎外感を抱くことになる。筆者の場合、移住前に30人以上と知り合いになっていたため、孤独感や疎外感とは無縁だった。

 また、移住者同士のつながりは、移住地でのストレスを共有し、自分と同じ境遇の他者から理解やサポートを得られ、移住者が適応の過程で感じるネガティブな出来事や感情を緩和させるのに有効である(加藤、前村、2021)。釜石には、三陸沿岸地域の他の市町村と同様に、東日本大震災の復興支援などに多くの都市部の若者が関わり、そのまま住み着き、人材開発、障がい児支援、林業、漁業などに携わっている人が散見される。年代は違っていても考え方や思いを共有できることが多いので、筆者は彼ら彼女らとのつながりも大切にしている。そのような移住者の動きを見て、地元での就労を希望する若者が増えたという。

 移住後、町内会長が、公園の草刈り、神社のしめ縄づくりや鳥居建立などの地域活動に声をかけてくれ、そこで町内の人たちと知り合った。元大学教員ということで、町内会の顧問を頼まれ、毎月の役員会に出席している。東日本大震災の津波記念碑建立実行委員会にも加わり、中高生の未来へのメッセージ作成の支援などに関わった。釜石の各町内会で実施している高知県発祥の100歳体操に参加し、地域の女性とも交流している。これらの活動では、出過ぎないようにしつつ顔と名前を憶えてもらうようにしている。また、東日本大震災に関する地域の追悼行事に実行委員として関わり、その関係でもネットワークを広げた。

 そのほか、釜石駅周辺の清掃活動、そば打ち、燻製づくり、マルシェへの出店、原木しいたけ栽培、縄文遺跡の発掘作業、トレイルランの運営ボラ、ハマナスやミズアオイの再生、避難路整備、男の手料理教室、わかめの芯割き、ホタテの耳釣り、漁業体験の受け入れにも関わってきた。これらの多様な活動を通じて、50人以上とつながりを持つことができ、移住前よりも広がりのある人間関係が形成できた。会う機会が多い人とは紐帯が強くなり、気のおけない関係になっている。

 また、野菜作り、山菜摘み、キノコ狩り、木陰での読書、ウォーキング、ラグビー観戦、100円市への出店など、都市部ではできないかやりにくいことが、移住生活の楽しみとなっている。加えて、都市部では限られている近所付き合いとして、食べ物のやり取りも時々行っている。採れ過ぎた野菜をご近所の方に食べてもらっているが、それ以上に頂くものの方が多い。

5.地域への愛着の醸成

 移住前も地元への関心を持っている方であったが、地域情報の入手は限定的だった。新聞やテレビで地元が取り上げられることはまれで、取り上げられても事件、事故といったものに偏っていた。

 移住後、地域情報を得る機会が増加した。NHKをはじめとして各チャンネルで岩手県内のニュースが流される。事件・事故よりも地域活性化の取り組みに関するものの方が多い。地方紙も岩手県内の4地域ごとに1ページ分の記事を掲載している。当然、釜石市に関するニュース・記事は、欠かさず見たり読んだりする。また、地域での活動、特に、100歳体操後のお茶の時間やそば打ち後の食事の時間に、地域の歴史や昔の生活に加え、東日本大震災関連の話も伺うことができる。これらの情報が移住先への愛着増進に寄与している。

6.豊かさの享受

 都市部とは異なる地方の豊かさは多々ある。まずは、自然の豊かさである。生活している借家は庭が広く、春から夏にかけての多様な花、秋には庭木の紅葉を楽しめる。近くには、海、川、沼があり、冬には白鳥をはじめとする渡り鳥がやってくる。少し足を伸ばせば、新緑や紅葉に染まった山々、日本の原風景的なのどかな農村がある。

 豊かな自然は食材の豊かさをもたらす。裏山では、春はわらびなどの山菜、秋はまつたけなどのきのこが採れる。海では、サケ、ブリ、サバなどの魚のほか、ウニ、アワビ、さらには、わかめや昆布などの海藻もとれる。新鮮な上に、値段も安い。

 岩手県は民俗芸能の宝庫と言われている。釜石の代表的な民族芸能は虎舞で、祭りで奉納されたり、各種イベントでも披露される。加えて、鹿踊りや手踊りも受け継がれている。県内に目を広げれば、各地で神楽が保存され、隔年で宮古市から神楽団が釜石にやってくる。また、製鉄所の従業員家族が現代的な文化活動を普及させ、現在でも活動が継続している。このように、地域文化も豊かである。

 また、岩手県は北海道に次ぐ面積を有し、自然だけでなく歴史関連の名所旧跡も多い。沿岸各地には東日本大震災の遺構や伝承施設が点在している。いずれも、大都市圏の観光スポットのような混雑とは無縁の中で、楽しみ、学ぶことができる。

7.生活の利便性

 生活の利便性に関して、大都市と地方との格差はかなり縮まっている。釜石にもショッピングモールのほか、家電量販店、大型ドラックストアもある。交通量は朝夕以外それほど多くないため、渋滞もほとんどなく、中心部でも駐車場探しの苦労はない。

 インターネットの発達により、コロナ禍で普及したオンラインセミナーに気軽に参加でき、遠隔地ともテレビ会議もできる。ネットショッピングを利用すれば何でも手に入るし、ウェブでレシピを見ながら新しい料理にもチャレンジできる。

 移住生活は特に不満や困りごとはない。しいて上げれば、築年数のたった日本家屋住まいでの冬の寒さだ。不便なことがあったとしても工夫して何とかすることも移住生活の楽しみになりうる。

8.おわりに

 選択肢が多い中で、どのような人生を送るかは一生のテーマである。これには居住地選択も含まれ、移住もチョイスの一つである。国や自治体の移住推進策では移住者の獲得が目的・目標にならざるを得ない面があるが、一人一人にとっては、より良い人生を送ることが目標であって、移住はそのための一つの手段である。移住して何をするかが大切である。

 移住のリスクを減らすには、情報収集は不可欠である。ウェブなどの情報は良いことに偏りがちなので、現地に赴き自分の五感で確かめる必要がある。地域の人とつながりができれば、移住の不安は軽減する。

 移住生活を楽しいものにするには、地域の人と交流、活動への参加と、それらを通して地域をよく知ることが重要である。移住前の予想と異なることは多々あり、移住計画を変更せざるを得ないこともある。自分の考えに固執するのではなく、地域社会に合わせて柔軟に対応する姿勢が大切だ。よそ者だから何でも訊くことができ、教えてもらえる。他方、地域の人から新しい力、新しい考えなどの提供が期待される。それに応える努力が地域との関係をより良好にする。このようにして、移住者と移住先の地域の双方がwin-win の関係になることは可能である。


参考文献

     

  1. O’Reilly, K. and Benson, M(. 2009)“, Lifestyle migration: escaping to the good life?”in: Benson, M. and O’Reilly, K(. eds‘)Lifestyle Migrations: Expectations, Aspirations and Experiences,’Ashgate, pp.1-13
  2.  

  3. 青木彩杜美(2023)「地方における女性移住者の経験とその変化 -岩手県陸前高田市の事例から-」『お茶の水地理』62, pp.11-20
  4.  

  5. 加藤潤三、前村奈央佳(2021)「移住動機による地方移住者の適応プロセスの較:沖縄の移住者の適応曲線の分析から」『立命館産業社会論集』56(4), pp.53-63
  6.  

  7. 齋藤大輔(2023)「現代日本の地方移住に関する予備的考察」『青山地球社会共生論集』7, pp.133-154
  8.  

  9. パーソル総合研究所(2022)「就業者の地方移住に関する調査報告書」
  10.  

  11. ふるさと回帰支援センター(2021)「地方移住に関する調査結果」

◆プロフィール◆

 東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、米国コーネル大学大学院Ph.D(都市及び地域計画学)取得。

 聖学院大学名誉教授。富士総合研究所(現、みずほ総合研究所)勤務を経て、2000年より聖学院大学政治経済学部教授。2015年10月より副学長。地域活動の活性化のため、学校法人聖学院が中心となって設立したNPO 法人コミュニティ活動支援センターの理事長を兼務(2007-2014)。2021年4月より埼玉県から岩手県釜石市に移住し、地域活動の支援、水産物の燻製づくりなどさまざまな活動を行っている。専門分野:都市問題。

 著書:『地域に求められる人口減少対策』(2005)、『おもしろそうから始まるまちづくり』(2006)、『もうひとつのスマートグロース』(2009)、『アメリカの空き家対策とエリア再生-人口減少都市の公民連携』(2020)、『共に育つ“学生×大学×地域”人生に響くボランティアコーディネーション』(共著 2023)他。

(『CANDANA』296号より)

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