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「明日への提言」  バックナンバー: 2019年

異文化布教から考える違いと理解

渡辺 雅子(明治学院大学名誉教授)

 

異文化布教に関する視点

 現在の私の研究テーマは日本の新宗教の異文化布教についてである。振り返るともう30年以上にわたって、このテーマに取り組んでいる。長年、フィールドにしたブラジルでは、 立正佼成会(以下、佼成会)、大本、金光教、天理教、霊友会、世界救世教、崇教真光、創価学会などの日系新宗教の調査研究をした。ブラジルという同じ土壌にさまざまな日系新宗教の種が蒔かれたが、各々の展開過程は異なっており、多くの非日系ブラジル人信者を獲得したものと日系人のエスニックチャーチ的な色彩が強いものがある。これは、ブラジルという同じ土壌に日系にルーツがある宗教の種を蒔いた時にその展開を規定するものは何かという主題のものであった。

 ついで同じ種を異なる土壌(国)に蒔いた時に、その展開を規定するものは何か、各国の文化に合わせてどのように変容していくのか、また、信仰の中核として変えてはならないことは何か、現地の人々はどのように日本の宗教を受容しているのかというテーマで取り組んでいる。その種として佼成会を選び、 これまで、南北アメリカではブラジル、アメリカ(ハワイ、オクラホマ、テキサス)、東アジアでは韓国、台湾、モンゴル、東南アジアではタイ、南アジアではバングラデシュ、スリランカ、インドで調査研究を行ってきた。 日本人・日系人から布教がはじまったのは、ブラジル、アメリカ、タイで、それ以外は100%現地人の信者である。海外に移住した日本人が中心となったものは、エスニックチャーチからの脱皮が課題になっている。

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現代の心の発達とアイデンティティ再考 ― エリクソンの智慧に学ぶ ―

岡本 祐子(広島大学大学院教育学研究科教授)

 

はじめに

 心を観る、自己を省察する、他者を支えるという意味では、宗教と臨床心理学は共通する点が多い。私自身、青年期の10年近く、臨済宗の老師について参禅をし、それにかなり深くコミットした。その道では在家の素人にすぎないのであるが、若き日に禅の世界にふれた体験は、その後の私の人生に相当な影響を与えた。青年期以来、臨床心理学の研究者・心理臨床家として、心の発達と危機の研究に長く携わる基盤となった〈問い〉は、次のようなものであった。ライフサイクルを通して心はどのように発達・深化していくのか。人生の中で体験される躓きや危機はそれにどのように影響するのか。人生の危機をプラスに転換していく人間の底力はどうやって培われるのか。躓きや危機のさなかにある人々の心の世界は、どうしたら理解できるのか。これらの〈問い〉は、未だに解けない。私の中にある古びることのない課題である。宗教に関心のある方々も、このような〈問い〉には馴染みが深いであろう。また、宗教的な視点からの「答え」もあると思われる。私にとっては、これらの〈問い〉を探究する上で大きな示唆を得たのが、エリクソンの人生と仕事であった。ここでは、エリクソンのアイデンティティ心理学の視点から、現代の心の発達とアイデンティティについて再考してみたい。
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