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「明日への提言」  バックナンバー: 2019年

現代の心の発達とアイデンティティ再考 ― エリクソンの智慧に学ぶ ―

岡本 祐子(広島大学大学院教育学研究科教授)

 

はじめに

 心を観る、自己を省察する、他者を支えるという意味では、宗教と臨床心理学は共通する点が多い。私自身、青年期の10年近く、臨済宗の老師について参禅をし、それにかなり深くコミットした。その道では在家の素人にすぎないのであるが、若き日に禅の世界にふれた体験は、その後の私の人生に相当な影響を与えた。青年期以来、臨床心理学の研究者・心理臨床家として、心の発達と危機の研究に長く携わる基盤となった〈問い〉は、次のようなものであった。ライフサイクルを通して心はどのように発達・深化していくのか。人生の中で体験される躓きや危機はそれにどのように影響するのか。人生の危機をプラスに転換していく人間の底力はどうやって培われるのか。躓きや危機のさなかにある人々の心の世界は、どうしたら理解できるのか。これらの〈問い〉は、未だに解けない。私の中にある古びることのない課題である。宗教に関心のある方々も、このような〈問い〉には馴染みが深いであろう。また、宗教的な視点からの「答え」もあると思われる。私にとっては、これらの〈問い〉を探究する上で大きな示唆を得たのが、エリクソンの人生と仕事であった。ここでは、エリクソンのアイデンティティ心理学の視点から、現代の心の発達とアイデンティティについて再考してみたい。
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